新たな研究により難聴が脳の機能に影響を及ぼすことが判明

06/03/17

New study shows hearing loss impacts brain function

ブレインヒアリング

「再構築(reorganization)」という言葉を耳にしたとき、私たちは一般的にこの言葉と脳とを結びつけることはないかもしれません。しかし今、新たな研究によって、聴覚の低下が起きると脳において再構築が起きているということが示されました。幸いなことに、この新たな情報によって、難聴と認知症の関係に新たな光が当てられ、聴力検査と(医療的な)介入を行うことに長期的な意義がもたらされる可能性が見出されたのです。

米国コロラド大学の音声言語聴覚科学科において実施された研究では、難聴が認められた後の、脳における神経の可塑性(生涯を通じた、新たなニューロン接続形成による脳の再構成)について焦点が当てられました。この研究では、難聴に対し脳がどのように適応するのか、またその結果生じる影響は何かという2つの疑問について究明されました。

実際に神経の可塑性とは、年齢を問わず、脳が変化する能力です。従来、脳は静的であって変化できないものであると考えられてきましたが、現代の科学では、そうでないことが知られています。難聴の場合では、脳のうち聴覚を司ることに専念していた領域が再構築されます。すなわち、他の機能に割り当てられるのです。

本研究には、軽度から重度までの難聴者または聾の方までさまざまな難聴の度合いを有する成人と小児が被験者として参加しました。研究者のチームは、音刺激に対する脳の活動を測定するため、各被験者の頭皮に最大128個のセンサーを取り付け、脳波(EEG)を記録しました。この手法によって、これら様々なレベルの聴覚障害を持つ人々の脳と健聴者の脳の反応がどのように異なるかについて理解することができました。

聴力の低下で、脳の聴覚野で起こること・・・

おそらく最も重要な発見は、聴力の低下が起こると、視覚、触覚など他の感覚を司る脳領域が、本来ならば聴覚を処理していた脳領域に取って代わるということでした。これは、皮質の異種感覚間再構築(cross-modal reorganization)と呼ばれる現象であり、喪失した他の感覚を代償しようとする脳の傾向を反映したものです。基本的に、脳は処理の配線を変えることによって喪失に適応します。これは一種の改造ですが、認知機能に深刻な悪影響を及ぼす恐れがあります。

初期の難聴であっても、認知機能の低下に結びつく可能性があります。認知機能を維持していくためには、健康な聞こえを守ること、難聴の度合いを問わず、難聴に対しできるだけ早く対処することが不可欠です。実際に近年、高齢者を対象とした人工内耳装用の結果について調べたフランスの研究においては、人工内耳の装用に伴う音声理解能力の改善に呼応した認知能力の改善が認められました。

難聴者においては、脳の処理の配線が変えられることで音声を処理する能力が著しく低下するため、音声理解能力に影響が生じます。軽度の難聴であっても、脳の聴覚領域は弱体化します。次に起こることは、高度な思考に必要な脳領域が、弱体化した領域を代償することです。高度な思考領域が聴覚領域に侵入し、本質的に聴覚領域に取って代わることにより、聴覚領域は本来の機能を果たすことが難しくなります。

実験を実施したコロラド大学アヌ=シャルマ教授のコメント

加齢性難聴では、脳の聴覚領域が萎縮します。高次の意思決定に通常使用される脳の中心部は、音を聞くだけでも活性化されるようになります。したがってこうした代償性変化は、高齢者の脳に対する全体的な負荷を増加させます。このような難聴による二次的な脳の代償的再構築は、加齢性難聴と認知症に関連があるとする近年の文献報告を部分的に説明できるかもしれません。

と、コロラド大学における本研究を実施したアヌ=シャルマ教授(PhD)は述べています。

シャルマ教授はさらに続けます。

なぜ加齢性難聴が認知症と関係があるのか、そして、なぜそれを深刻に受け止めねばならないかを、脳の代償的再構築によって説明できる可能性があります。初期の難聴であっても、脳は再構築を始めます。これに対し単純に解決するとするならば、早期または定期的に聴力検診を受けることです。難聴にできるだけ早く対応し認知機能低下の先回りをすることで、その後の認知機能に関する長期的問題を予防できる可能性があるのです。これは、人工内耳を使用しているろうの子どもたちにとっても意義がある可能性があります。人工内耳を使用している小児の脳波を調べることにより、その異種感覚間再構築の特異性を知ることができ、聴覚リハビリテーションプログラムを個別に作成できる可能性が生まれます。

コロラド大学チームのここからの取り組みとは

コロラド大学チームの取組みはまだ終わっていません。次は、研究の実用化です。

「我々の目標は、脳が再構築されているか否か、また、どれくらい再構築されているかを特定するため、難聴者一人ひとりの脳を容易に『画像化』できる使いやすいEEG技術の開発です。こうした脳再構築の青写真により、難聴者への臨床介入の指針を得ることができます。」ともシャルマ教授は述べています。

難聴は、高齢者に影響を与える最も一般的な病態の一つです。米国国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)によると、65~74歳の3人に1人がある程度の難聴があると言われています。75歳を超えると、約50%に増加します。しかし、実際に補聴器を購入しているのは、必要とする難聴者数の25%未満です。

また、難聴に気付いても、補聴器の購入を考えるなど、実際に難聴に対処するまでには、平均で7年間の歳月がかかると言われています。しかし、このとてつもなく長い期間に、容易に予防が可能であるはずの認知機能が低下していくことにもなるのです。

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引用元について:Contributed by Lisa Packer, staff writer, Healthy Hearing June 18, 2015

英語版は下記から参照いただけます: http://www.healthyhearing.com/report/52469-New-study-shows-hearing-loss-impacts-brain-function