認知(知覚)とは、知識に関連する脳の能力とそのプロセスを表しています。 研究者たちや聴覚ケアの専門家は、聴覚および難聴において「認知」が果たす役割について理解しています。会話をするとき、難聴に悩む人々はある言葉は聞くことはできますが、一方で聞き間違える言葉もあります。したがって、難聴者の脳の力の一部は、聞き間違えた言葉からの推測に費やされます。騒音がある場所で多くの人々が同時に話している環境では特に、このことが当てはまります、騒音は聞き取りをさらに難しくさせるからです。
聞こえに悩む人々は、会話が「空白を埋める」ゲームに取って代わってしまうとしばしば訴えます。数分の間であれば楽しいゲームになるのかもしれませんが、いま何を言われたのか常に推量し続けることは疲れにつながります。さらに、脳はどんな言葉が交わされているのかの推測に脳の力を忙しく働かせている際には、情報を脳のワーキングメモリ(作業記憶)に記憶するといったその他の認知プロセスを完了することができません。聴力低下のある人は、聴力低下、耳、および脳の間にそれぞれ相互作用があることを認識しているでしょうか?聴覚ケアの専門家は、難聴があることが判明した方々に向けて、認知の役割について説明する必要があるのではないでしょうか?
この課題について調査するために、聴覚学の分野における初めての国際的および学際的な定性研究の1つとして、デンマークのエリクスホルム研究所の研究者たちは軽度からこう重度まで難聴のある成人の男女34人に聞き取り方式*で話を聞きました。この調査にはオーストラリア、デンマーク、英国そして米国の4か国からの参加がありました。参加者については難聴への対処や聴覚のリハビリテーションについて、助けを求めることを全く考えていない人から補聴器の装用に満足している補聴器ユーザーまでその経験は多岐にわたっていました。
調査はインタビュー形式で行われました。「あなたの聞こえについてお話しください」の問いに対して、参加者が語った話を分析した結果、難聴者は、自身の聴力損失について耳への影響にだけでなく脳との相互関係についても考えているということが分かりました。参加者は、聞き取りの中で、年齢の変化と認知との関係についても話しました。例えば、参加者は年齢に関連した認知の変化について、期待する変化または参加者自身が経験した変化のいずれかについて言及しました。
参加者は、自身の聴覚に関連する認知の3つの側面について議論しました
- 脳の可塑性:参加者は、神経可塑性、すなわち脳が変化する能力についてはっきりと認識していました。この例として参加者は、新しい補聴器の使い方について学んだ際の補聴器への期待やその際に得た経験について描写しました。
- 認知機能:参加者は認知の働きについて描写しました。参加者の多くは、聴覚と認知機能との相互作用について高いレベルで理解していることが分かりました。
- 聞くことの努力:参加者はまた、認知機能への負担、または過負荷がかかる際にどのようなことが起こるかについても話しました。認知機能へ負荷がかかる結果として聞くことへの努力や、ひいては疲労をもたらすことについて描写しました。参加者によっては聞くことの努力について、例えば補聴器のようなリハビリテーションによって緩和される可能性があるとしています。
調査結果として~参加者の視点は4つのトピックスに集約される~
この調査での参加者の視点は、
「難聴があることへの認識」、「聞こえのサポートとなるものを探すこと」、「自分自身の補聴器を使うこと」、「難聴に対する考え方と知識」の4つの主要なトピックに集約されました。
参加者たちは、自身の聞こえについて理解しようとするとき、日々の生活の中での自身の経験を手がかりとすることで状況について理解ができるとしています。
したがって例えば、補聴器の最初の調整がとても大切という話を聞くより、補聴器の使い方やお手入れ方法といった、ユーザー自身の日々の生活に直接関連するエピソードを説明してもらえることがどれほど重要かを参加者たちは強調しました。
難聴を持つ成人の方々は、認知機能と聴覚の相互作用について理解されています。聴覚ケアそして補聴器の専門家は、補聴器を検討中の人々に対しても、認知と難聴との相互作用について説明をいただく必要があるということです。そして最も重要なこととして、難聴の問題を抱えたまま日常を送ることで起こり得る問題についても話されるべきです。聞こえの悩みを持つ人々はそのようなことに関心を持っているからです。
聴覚ケアそして補聴器の専門家は、難聴と耳と脳との複雑な相互作用において補聴器をはじめとする聴覚サポートによるリハビリテーションがどのような役割を果たすかについても説明を行う必要があります。
■ 参照情報
- *Laplante-Lévesque A, Knudsen LV, Preminger JE, Jones L, Nielsen C, Öberg M, Lunner T, Hickson L, Naylor G, Kramer SE. (2012). Hearing help-seeking and rehabilitation: Perspectives of adults with hearing impairment. International Journal of Audiology, 51, 93–102.
- Preminger JE, Laplante-Lévesque A. (2014). Perceptions of age and brain in relation to hearing help-seeking and rehabilitation. Ear and Hearing, 35, 19-29.
- エリクスホルム研究センター「Help-seeking and rehabilitation:Perspectives of adults with hearing impairment」
エリクスホルム研究センターについて
オーティコンは先進のノンリニア補聴器、フルデジタル補聴器および人工知能補聴器を開発し、業界のパイオニアとして革新的な技術を難聴者とともに開拓してきました。1977年には先進技術とオージオロジー(聴覚学)を研究する
エリクスホルム研究所(デンマーク)を設立、世界中から参集した様々な分野の科学者と1,000人以上のテストユーザーと共に将来の補聴器開発に取り組んでいます。
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