BrainHearing™(ブレインヒアリング)特集第3回

10/02/17

BrainHearing: New approach to speech intelligibility testing

すべては「脳」を考えることから。
BrainHearing™がオーティコン補聴器のアプローチです。

 

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補聴器の効果を測定するためには、さまざまな指標が使われています。今回の特集では一般的に使われている「騒音下でのことばの了解度」について説明しつつ、さらに新たな補聴器評価の方法として、「難しい環境の聞き取りでどれくらい認知能力に余力を持たせられるか」について着目した新しいアプローチをご紹介します。

「Brain:脳」から「Hearing:聞こえ」を考える。耳を通じて届いた音の意味を「脳」がより楽に理解できるように助ける、私たちはこれを BrainHearing(ブレインヒアリング)と呼んでいます。

BrainHearing™アプローチのさまざまな側面について次回以降も引き続き特集していきます。

BrainHearing™(ブレインヒアリング)

ことばの理解度をはかる検査への新たなアプローチ

 

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例えば補聴器の主要な機能の一つである騒音抑制の効果について検査する際には、伝統的に騒音下でのことばの了解度について測るテストが使用されてきました。これらのテストでは、ことばなどの聞くべき音信号の量(S:Signal)と環境騒音などのノイズの量(N:Noise)の比率(SN比)がパーセント(%)で測られます。

この指標では、SN比の示す値が高いほど雑音が少なく、低ければノイズ(騒音や雑音)の影響が多いということになります。聞こえについて考えるとき、よけいな騒音をカットすることでSN比を高くすることは、聞こえやすさにつながります。SN比は、聞くべき音信号に対するノイズ(雑音)の影響について比率(パーセント)ではかられる相対的な情報であることから、dB(デシベル)単位で明記されることもあり、本コンテンツではdBで説明しています。

通常は、SN比を測るテストでは、SN比が0 dB (音信号 ≤ ノイズ)以下になるように行われます。なぜなら、このレベルがもっとも聞こえが難しい状況だからです。しかしながら、最近行われた、補聴器ユーザーの日常生活の実環境を念頭においた研究によると、もっとも典型的な生活環境下(例:台所や車内騒音など)において補聴器ユーザーがさらされるSN比のレベルは0dBより上の値を示していることが分かりました*

実生活に即した環境のもと、補聴器への騒音の干渉を調べるには?

 
専門用語では「生態学的妥当性」とも呼ばれますが、実生活に即した環境のもとで、実際の補聴器の信号処理に対するノイズの干渉を調べる際には、音信号とノイズの差が+5-15 dBとなるように設定すべきであることを示しています。

私たちの日常に近い音環境に近づけるためにSN比に+5-15 dBと幅を持たせることはまた、伝統的な騒音下におけることばの了解度テスト(0dB)に対しても優位性があります。

結果として、さらにこれらに加えて新たなテストの基軸が必要となり、その有効なテスト指標として登場したのが「認知能力においてどの程度の余力があるのか(CSC:Cognitive Spare Capacity)」を測ることでした。

認知能力における余力とは?

 
認知能力における余力とは、会話の内容を理解した後に、「認知能力にどのくらい余裕があるか」ということを指しています。静かな環境(最適な聴取条件下)では、私たちの脳で会話の内容を理解する働きは自動処理化されており、したがって私たちは、特に意識すらすることなく自分自身に向けられた話の内容を理解することができます。 (言語処理モデルELU→ブレインヒヤリング特集1回目へのリンク)

一方で騒音があるなどして、聞き取りの難しい環境では、いま何を言われているのか、会話の内容に注意を払い、そして集中して聞く必要があります、この際わたしたちは自分自身の脳のワーキングメモリーを働かせます。

ワーキングメモリーとは、作業記憶とも呼ばれますが、状況に合わせて、短期的に話されている内容を記憶しながら、会話をつなげるために 、一時的に言われた内容を記憶する、または自分自身の記憶の中から必要な情報を呼び出したり、蓄積(プール) された記憶に戻したりする働き、他にもさまざまな働きをつかさどっています。

ワーキングメモリーを働かせれば働かせるほど、「一時的に記憶する」ことなどに使う認知能力には余力がなくなります。研究の現場では、健聴者と比較して、難聴者は、難聴があることによって脳に届く情報が欠けたりするのではないか、または音のゆがみなどが生じることで「何を言われているのか」を理解するためにより多くのワーキングメモリーを必要としているのではないかと考えられています。

このようなことから、補聴器の効果を測定するために、脳のワーキングメモリー資源の負荷量を測るさまざまなテストは役に立つということを示しているといえます。

スウェーデンで実施された記憶想起に関する研究

 
2013年に難聴の被験者を対象に記憶想起に関する研究が、スウェーデンで実施されました**

研究の一貫として、スウェーデン語を母国語とする被験者が背景騒音のある中で複数のスウェーデン語の文章を聞いた後、これらの文章中にあったいくつかのキーワードについて、そのうちのいくつを思い出せるかという手法を用いたテストが行われました。

研究の成果として、このテストを使用することで脳のワーキングメモリーの残留量を測ることができるという結果が導きだされました。

 

エリクスホルム研究センター(デンマーク)における研究へと拡大

 

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言語によって研究結果が変わるのかどうかを含め、このテストはさらに25人の難聴のある被験者を対象とした新たな研究へと引き継がれました***

実験はデンマークのエリクスホルム研究センターで行われ、被験者の平均年齢は約70歳、中度~高度難聴を持つデンマーク語を母国語とする補聴器ユーザーが対象となりました。同じ手法のテストであっても言語を変更したことによって、思いもかけない結果が出る可能性があるということはそれまでの実験でも経験していることでした。(Lunnerら、2012)

この実験ではテスト環境は、背景騒音がある中でテスト文章が読み上げられる方法で行われました。背景騒音には被験者と同じくデンマークを母国語とする4人の話者の会話を使いました。SN比は、さまざまな声がする中で相手の声を理解しようとするといった日常環境を想定した+7~9dB前後です。

テスト方法は、背景騒音のあるテスト環境下でそれぞれ異なるキーワードで終わる7つの短い文章を聞いた後、それぞれの文章に含まれたキーワードのうちのいくつを思い出せるかというものです。文章は被験者の母国語であるデンマーク語を使用しています。

テストの結果、被験者全員がほぼ100% 7つのこの短い文章について、それぞれ文章の意味を正しく理解(了解)することができました。

補聴器の騒音抑制機能をオンにすることで、キーワードの記憶の結果に約10%の向上が・・・

 
その上で、行われた「いくつキーワードを覚えているか」という記憶想起のテストにおいては、4人の話者が同時に話す背景雑音の条件を変えることなく、補聴器機能の騒音抑制機能を積極的に使用した状態(周囲の雑音が抑えられる)で同じテストを行った場合、キーワードの記憶の結果に約10%の向上が見られました。 この実験に先行してスウェーデン語で行われた実験と同様の結果が見られたため言語によって違いが出るものではないと結論づけられました。

したがって導き出された結論は、限定的なテストではあるものの、生理学的に適切な音信号(S)と騒音(N)の混在する環境で、騒音抑制といった補聴器の機能を計測する際に、このようなテストを行うことは、有効な方法であるといえるかもしれないということです。

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図表1:記憶想起テストの実験において「騒音抑制」によるサポートの無い状態

 

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図表2:記憶想起テストの実験において補聴器機能のサポートにより、騒音が抑制された状態

同じテストにおいて、補聴器機能のサポートによって騒音が抑制された状態では、キーワードの記憶の結果に約10%の向上が見られた。

エリクスホルム研究センターについて

 

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* Smeds et al. 2012
** Ng et al. 2013
*** Thomas Lunner1,2, Elaine Ng2, Maria Grube Sorgenfrei1,3, Marianna Vatti1, Renskje Hietkamp1, Dragan Gusatovic3, Graham Naylor1
 
1. Eriksholm Research Centre, Oticon A/S, Snekkersten, Denmark
2. Dept. of Behavioural Sciences & Learning, Linköping University, Sweden
3. Oticon A/S, Smørum, Denmark
 
エリクスホルム研究センターは、デンマークにあります。オーディオロジー(聴覚学)に関わる研究を、物理学、音響学、生理学、聴能学や工学に至るまで、幅広い分野の研究員と大学や民間企業の研究者との国際的協力により行なうため1977年に設立されました。
 
Find the IHCON poster (and other Eriksholm contributions)
Bramsløw, L., Vatti, M., Hietkamp, R., & Pontoppidan, N. H. (2014). Design of a competing voices test. In International Hearing aid Conference (IHCON) 2014. Lake Tahoe, CA, USA.

 

【本件に関するお問い合わせ】

■ オーティコン補聴器 (渋谷、山口)
■ TEL 044-543-0615
■ FAX 044-543-0616
■ E-mail info@oticon.co.jp
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