補聴器ができるまで:構想から完成まで

27/05/20

※本コンテンツは、2016年5月に弊社ウェブサイトでご紹介したコンテンツを再掲載したものです。

Timeline of a hearing aid: from concept to completion

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【イメージ】目立たない補聴器

新たな補聴器が開発されるとき、そのきっかけは何でしょうか?新製品の着想から、アイデアを形にする新技術の開発、そして市場への投入までを5つのステージに分けてお伝えします。

自分自身の周囲の環境の中の音を増幅させて耳に届けるのが補聴器。世の中に始めて補聴器が登場したとき、それはラッパの形をしていました、その後箱型をした補聴器が生まれ、そして時代の移り変わりとともに大きな飛躍を遂げています。現在、補聴器は、外耳道にフィットしてほとんど見えないほど、そのサイズが小さくなり、さらにその小さな本体の中に、先進的な技術を搭載しています。

会話と周囲の雑音を分けて耳に届けることや、テレビや携帯電話、スマートフォンといった日頃よく使う電子機器の音声を補聴器に直接送るといった互換性も備えています。

ところで補聴器の開発にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?コンセプト作りから製品の完成まで、一連の過程には10年以上を要し、500人もの開発エンジニア、聴覚ケアのプロフェッショナル、補聴器販売の現場に関わる人々、一般の消費者も携わります。それらすべての人々が、補聴器ユーザーの生活の質(QOL)の改善につながる補聴器を生み出すことに注力しています。

1.研究開発:聞こえに悩む人の課題はどこにあるのか

Research and development
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新たな高機能補聴器の開発、特に新たなプラットフォームやデザイン設計を導入する場合には、3~4年という歳月を要し200~300もの人々が関わることになります。とは言え、すべては、どのような補聴器が必要なのかアイデアを得るところから始まります。そしてアイデアの多くは一般の人々、より良く聞こえることを望む実際に聞こえに悩みを抱えた人々からもたらされます。病院や、補聴器販売店などで伝えられた聴覚に関するさまざまな悩みや問題も、解決すべき課題として、補聴器メーカーに伝えられることになります。

また、新たな補聴器設計のためのアイデアは、病院や学校における聴覚ケアの専門家や販売の現場から直接もたらされたり、技術の革新がきっかけとなることもあります。補聴器メーカーは、難聴者や補聴器ユーザーが直面している課題を理解するとすぐに、その解決に向けた製品開発のプロセスに着手します。

「技術がつねに変化するように、年齢を重ねることの概念自もまた変化し続けます」と米国聴覚ケアの専門メディアHealthy Hearingのデジタル部長マンディ・ムロス(Mandy Mroz)氏は言います。「現在の65歳は自分自身が年を取ったとは考えません。消費者は自身の健康、そして聞こえの健康についても深い関心を持ち、聴覚ケアに高い期待を抱いています。聴覚ケアの専門家や販売に関わる人々にとって新しいタイプといえるユーザーです。

携帯電話を例にとると、携帯電話はアプリの登場によって自分自身に合わせて機能やサービスを管理するスマートフォンへと進化しました。スマートフォンの開発メーカー各社は、若者や精神的に若い人々にとって、携帯電話を日常的に使いやすい機器へと進化させるというゴールを持ち、そこからスマートフォンが生まれたわけです。」

現在の補聴器ユーザーがもっとも大きな不満として訴えること
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補聴器に話を戻しましょう。もし新製品のコンセプトを実現する技術が存在しない場合、開発工程は全体のプロセスにおいて最も時間を要する部分となります。例えば、現在の補聴器ユーザーがもっとも大きな不満として訴えることの一つに、「複数人が話す声を、背景となる周囲の騒音から区別する機能」があります。2013年に米国オハイオ州立大学の研究者たちは、音を言葉かノイズのどちらかの単位に分割し、そしてその後にノイズを除去する方法を発見しました。その新技術に取り組んだオハイオ州立大学の言語聴覚学教授であるエリック・ヒーリー(Eric Healy)博士は、今後10年以内にはその技術が市場に出ることを期待していると話しました。

2. 試験:新たな技術を開発するということは

Testing
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新たな技術を伴うプロトタイプでは、その有効性を測定する目的から、臨床試験を行う必要があります。メーカーは、消費者に向けた補聴器を市場に出す認可を確保すべく、米国食品医薬局(Food and Drug Administration, FDA,以下FDA)に臨床データを提出します。これは、補聴器が医療機器に分類されており、厳格なガイドラインに適合しなくてはならないからです*

FDAに検証データが提出されている聴覚ケアに関連した印象的な事例
  • 例えば、FDAは近年、音を増幅するために半導体レーザーおよび鼓膜の直接振動を用いる新型補聴器の市場化を認めました。カリフォルニア州メンローパークにあるEarLens 社が製造したEarLens小型補聴器(CHD)は、軽度または重度の感音性難聴を持つ成人に向けた製品です。同社の小型補聴器は、装用したユーザーの鼓膜をスピーカーとして使用し、より広い周波数帯における音の増幅を可能にします。
  • 現在試験段階にある新技術のもう1つの事例が、スコットランドのスターリング大学の研究者たちの手によるものです。同研究チームでは現在、読唇を行って視覚情報をリアルタイム処理できる小型カメラを搭載した補聴器の開発に取り組んでいます。補聴器の音声情報と、カメラからの視覚キュー(手がかり)を自由に切り替えることでユーザーの聞こえを助けるというものです。研究者たちは、この新たなソフトウェアにより、喧噪を伴うレストラン、空港や駅といった聴取が困難な公共の場などで、難聴者のコミュニケーションが強化されることを期待しています。
  • 言語聴覚学の教授で音響心理学の専門家である米国ボストン大学サージェント・カレッジのジェラルド・キッド(Gerald Kidd)教授が、2011年から取り組んでいる構想も聴覚を視覚と組み合わせようとするものです。キッド教授の液晶モニターと連動する補聴器(VGHA)のプロトタイプは、2014年後半から試験段階にあります。キッド氏は、補聴器メーカーが彼の構想に関心を示しウェアラブル(身に着けて持ち歩ける)な機器へと発展することを期待しています。

3. 設計と製造:高い期待に応えるために

Design and manufacturing

技術試験が実施されFDAの認可を得ると、エンジニア達は協力して設計と製造に着手します。皆さんは補聴器を構成する部品自体はさほど高価ではないと感じているかもしれませんが、これらを魅力的で装用可能な製品とする過程は困難を極めることになります。現在の消費者が好むのは、目立たずひっそりとしかし確実に動作しながら、自身の活動的なライフスタイルの妨げとならない補聴器なのです。

補聴器で使われている技術の中には、外注や委託することができない特殊な技術や機器・装置が求められることから、一部補聴器メーカーでは自社生産設備を備えおり、毎週、数千台の製造が可能な大規模な生産施設も存在しています。

4. 教育:新たな補聴器そして技術に目を向け続けることの重要性

Education

補聴器の技術が過去50年間で劇的に変化したことは周知の通りです。補聴器はユーザーに合わせた調整が必要ですが、それほど遠くない昔、補聴器の調整はねじ回しを使って手動で行われていました。現在の主流であるデジタル補聴器の調整では、コンピュータで正確にプログラミングされ、ユーザー一人ひとりの聴力に加えてライフスタイルに合わせたカスタマイズが行われています。

このような進化は聞こえの問題を抱えた消費者の胸を躍らせます。一方でこのことは同時に、一人ひとり異なるユーザーのニーズにフィットする聞こえを届け、高い満足度につなげるために聴覚ケア、特に補聴器に関わる専門家や補聴器調整を行う専門スタッフは、市場に届く新たな補聴器機器について学び続けなくてはならないことを意味しています。

5. 流通:お客様と直接向き合う対面販売が意味すること

Distribution
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この段階で、ついに補聴器が市場に提供されるまでの態勢が整ったことになります。オーティコンをはじめ、ほとんどの主要な補聴器メーカーでは、聞こえに問題を感じた場合、まずは医療機関で受診いただくことを推奨しています。そしてお客様と直接、補聴器カウンセリングを通じて対話を行い、対面にて販売を行う販売店に対してのみ製品を供給しています。

その理由として、お客様自身が適切な助言を受け、難聴や現在の聴力を把握すること、補聴器の実際の購入に際しては、カウンセリングを通じて、補聴器の役割について理解いただくこと、また調整に際し、補聴器の専門スタッフがその方のニーズや聞こえの状態に合った補聴器を選択し、適切な調整をすることで、補聴器の装用が成功する可能性が高くなることが研究によって明らかにされているからです。また消費者保護の立場からも、補聴器について正しく理解いただいた上で購入いただくことは必須です。

こういったことは一体、何を意味しているのでしょうか?補聴器を作るのは時間を要するプロセスではあるものの、補聴器を必要とするお客様の手元に届く補聴器は全て徹底的な研究開発の過程を経て、製造およびさまざまな品質試験を行い、そしてFDAによって許可されたものであるということです。*

また、日本国内での流通においては、法令に基づき補聴器メーカーが厚生労働省に対し申請を行います。そして厚生労働省が正式に医療機器として認定した補聴器だけが市場へ送り出されます。補聴器は薬事法が定める管理医療機器です。その認定を受けるためには、効果や安全性などに関する一定の基準をクリアする必要があり、個別の製品ごとに正式な認定を受けなければ製造販売はできません。

このお話の最後に

そしてこの文章をお届けしているこの瞬間、補聴器メーカーでは次の、さらにはその次の補聴器を生み出すための、さまざまな研究や技術開発が行われています。新しい補聴器の開発プロセスには、実に10年もの年月がかかりますが、難聴者の方の持つ課題への回答として、聞こえの向上を実感いただく製品を生み出すことができるのであれば、それだけの期間をかける甲斐があると言えるでしょう。

出典・コンテンツに関するお問い合わせ

*オーティコンの補聴器は世界のさまざまな国と地域で聞こえの悩みを抱えた人々を力づけ続けています。米国における補聴器の市場展開に際してはFDAの認可を、また各国各地域の法律や制度に準拠した製品を展開しています。

【本件に関するお問い合わせ】

■ オーティコン補聴器 (林田)
■ TEL 044-543-0615
■ FAX 044-543-0616
■ E-mail info@oticon.co.jp

本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトは healthyhearing.com並びにOticonに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingまたはOticonが指定する執筆者または提供者に帰属します。

引用元について:Contributed by Debbie Clason, staff writer, Healthy Hearing | Wednesday, February 24th, 2016