小声とは何か、または言語の違いが小声にどのような影響を与えるのか。

12/05/20

※本コンテンツは、2015年5月に弊社ウェブサイトでご紹介したコンテンツを再掲載したものです。

Back to Basics: What Is Soft Speech and How Is It Dependent on the Language Being Spoken? Published on February 18, 2015

米国HealthyReview 2015年3月号掲載の翻訳転載

著者:Marshall Chasin,Audiologist

小声とは何でしょうか。教科書通りに言えば、それは高周波帯域の子音で構成されている音と呼べるでしょう。言語学者の間では閉鎖音とも呼ばれる小声ですが、具体的にはs、sh、f、thなどの音がその典型として挙げられます。実際のところ、これらの声量を落とした声のサウンドレベルは40-50dbSPLに相当しますが、一方で母音と鼻音のサウンドレベルは70-85dbSPL近辺に相当します。難聴のレベルを問わず、一般的に補聴器は高い音に対してはより少ない増幅、小さい音により大きな増幅をかけています。

ここまでの所はよいとして、会話の話し始めの音と会話の終盤での音の要素の比較ではどうでしょうか?わたしたちが話し始めるときには、周りに向けて自分の意見を伝えようとして、肺にいっぱい空気を吸い込みます。しかしながら、話を伝え終わるまでには、声の大きさはきわめて小さくなっていきます。

例えばFatherなどの単語に含まれる「a(あ)」という母音について、同じ音であってもセンテンス(訳者注:句点によって分けられる一続きの文)の中で使われるときには、センテンスの冒頭に発せられる場合と最後に発せられる場合とでは、冒頭の「a(あ)」の方がよりはっきりと発音されます。

この傾向に関していえば、”Mary saw Tom”と言ったSVOの語順を持つ英語や多くのインド-ヨーロッパ言語(フランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ギリシャ語、ロシア語等)には有利な点があります。 ”Mary saw Tom (メアリーはトムを見た)”のセンテンスはそれぞれMary(S:主語)、Saw(V:述語)Tom(O:目的語)といった品詞で構成されています。 名詞やものの名前などの目的語は、動詞や前置詞と言った補助的な品詞よりも大きく発音される傾向があるため、文末に目的語がおかれる場合、センテンスの終わりになっても音量が小さくならないということがあります。

図表1は英語などのSVO体系の言語における音の強さの上下を表しています。これでみるとセンテンスの後半には確かに音量が下がっていますが、それほど顕著でもありません。文末において肺の中の空気は少なくなっていますが、目的語のもつ重要性に助けられる形で、音量が大きくなるのです。

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【図表1】この定型化されたグラフは私たちが一つの文章を話している間に、どのように音量が下がっていくかを示しています。グラフが右に行くにつれ、肺の空気残量が低下していくことになります。英語のような主語(S)-述語(V)-目的語(O)の順になる言語では、文末に目的語や重要な名詞が来ることで、音量が上がることになります。これとは対照的に、日本語やヒンドゥ語のような主語(S)-目的語(O)-述語(V)の順になる言語では、文の最後に声量を上げる効果を持つ品詞が置かれません。日本語のような言語では、文の終盤の音は"小声"と同質なものと見なされます。

ところが、現在話されている言語の中には、SVOではなくSOVの語順をもつ言語体系も多く存在します。(訳者注:言語の中の約48%がこの言語系であるとされる。日本語もまたSOVの語順)

このような言語では、動詞や形容詞、前置詞といった補助的な品詞がセンテンスの後に置かれるため、人がセンテンスを発するとき、文章の終わりに向かうにつれて比較的音量が小さくなります。このような言語では、母音や子音の如何を問わず、センテンスの終わりは小声になっていると考えるべきだと思われます。

SOV型の言語例には、ヒンドゥ語、ウルドゥ語、イラン(ペルシャ)語、韓国語、日本語そしてソマリ語などがあります。再び図表1に目を向けるとSOV型の言語を示すグラフでは、会話時の声量が終盤で大幅に落ちることが示されています。

この傾向は、SOV型言語ではセンテンスの最後まで話しきるだけの十分な空気が肺に残ってないということだけではなく、そもそも文末に重要な名詞などがおかれることがないということからも明らかです。よって、(日本語をはじめ)SOV型語順を持つ言語では、小声は高い周波数帯の子音だけに限った話ではなく、センテンスの終わりには常に存在すると言えます。

補聴器のフィッティングに際して、英語(SVO型の言語)と例えばヒンドゥ語(SOV型の言語)の双方を話すバイリンガルの補聴器ユーザーでは、プログラムのひとつは英語用に、もうひとつはヒンドゥ語用に調整し、後者については低レベル(文の終わり)に対してより大きな利得を処方してもよいかもしれません。

さらにポリネシア語系列の言語グループ(オーストラリアの北部で使用される)を話す補聴器ユーザーにはより興味深い情報があります。これらポリネシア言語は動詞(V)-主語(S)-目的語(O)の品詞の順番になっており、重要で高い音の名詞は文章の最後に置かれます。これらの言語をしゃべるユーザーは、英語やSVO型式の言語と比較して、低域の小さな音については、それほど増幅は必要ないということになります。

日本語と小声の関係について

本コンテンツの翻訳にあたり筆者Marshall Chasin氏より日本語と小声に関する補足をいただきました。

日本語は小さな声の入力に関してより大きな利得が必要です。その理由は、日本語もまたSOV型の言語だからです。英語と比較して、圧縮に対し高速のリリースタイムが必要となります。その理由として日本語は子音-母音-子音の規則的な形態構造を持っている言語だからです。

したがって介在する低入力の子音には、十分な利得が必要です。また日本語は、英語に比較して低音域の成分が多い言語であり、母音の長さ(低音域)が言語的に意味を持つモーラ拍言語です。

著者並びに参考文献

Chasin M. Sentence final hearing aid gain requirements of some non-English languages. Can J Speech-Lang Pathol Audiol. 2012;36(3):196-203.

筆者Marshall Chasin氏について: オーディオロジスト(Audiologist:聴覚専門家)であり、カナダトロントのミュージシャンクリニック(Musicians’Clinic)における研究部長。Hearing Loss in Musicians、 The CIC Handbook、Noise Control—A Primerといった5冊の著書を出版、音楽と難聴に対する寄稿なども多数。

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This article was originally published in the March 2015 edition of The Hearing Review, and appears here with permission. Translation by Oticon. Original citation: Chasin, M. What is soft speech and how is it dependent on the language being spoken? Hearing Review. 2015;21(3):14. English version available at: http://www.hearingreview.com/2015/02/soft-speech-dependent-language-spoken

この記事は、2015年3月号のヒアリングレビュー(HearingReview)に記載されたものを同社の許可のもと転載するものです。当該記事は弊社において翻訳されたものです。
引用元について:Chasin, M What is soft speech and how is it dependent on the language being spoken? Hearing Review. 2015;21(3):14.

本文中の括弧書きはオーティコン日本における補足加筆となります。本記事のコピーライトはHearingReviewに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、HearingReviewが指定する執筆者または提供者に帰属します。