隠れ難聴という問題

24/06/22

隠れ難聴という問題 ~難聴と診断される前に、日ごろから耳を守ることが大切です~

一年でも昼間の時間が最も長いこの季節、6月24日の聖ヨハネの誕生日に合わせデンマークでは前夜から夏至祭(Sankt hans aften 聖ヨハネの夜)を祝いデンマーク中の海辺や湖畔などで大きな焚き火を囲いながら1885年にデンマークの詩人ホルガー・ドラクマンが作曲した「Midsommervisen」という歌を歌って平和を願い、焚き火を囲むのが伝統です*1。聖人の総称ともされる聖ヨハネですが、この聖ヨハネを称える中世の賛歌の一つ「聖ヨハネ賛歌」は、私たちの誰もが知っている音階ドレミの祖となっているとのこと。

音楽はあらゆる年齢や文化の人々を結び付け、私たちの日常を豊かにし、個人的な感情や思い出を呼び起こし、心を和ませます。音楽は、私たちの精神面での健康にとっても欠かせない要素ですが、多くの人は、大きな音を聞き続けることによって耳へのダメージが蓄積され、聴力が徐々に低下する可能性があることに気づいていません。健康診断などで行われる一般的な聴力検査や静かな場所での聞き取りには問題がなくとも、騒がしい場所での聞き取りに難しさを感じる隠れ難聴のリスクが指摘されています。

◆ 隠れ難聴とは*2

隠れ難聴とは、従来の聴力検査などでは、特に問題ないとされながらもよく聞こえないと訴える場合に使われる言葉です。隠れ難聴は、聴覚研究の新しい分野であり、騒音下での聞き取りが困難であることを示すものです。これは、従来の聴力検査では発見が難しかった初期の難聴であり、将来的な聴力低下の可能性へつながる第一段階ともされています。

例えば、コンサートなど大音量のイベントに参加した後、一時的な聞こえの低下を経験したことがある方は多いかもしれません。通常、聴力は短期間で元に戻りますが、大きな音にさらされ続けると、不可逆的なダメージを受けます。このダメージにより、正常な聞こえへの回復が遅くなり、最終的に正常に機能しなくなる可能性もあります。このようなダメージは、隠れ難聴の原因として知られており、世界保健機構(WHO)は「10億人以上の若年層が、安全ではない聞き方を重ねることによって、本来は回避可能な永久的な難聴となる危険にさらされている」と発表しています*3

◆ 隠れ難聴は、次のようなリスクにつながる可能性があります

  • 加齢性難聴の加速的な進行へとつながる可能性*4
  • 難聴は早期の認知機能低下と認知症につながる重大な危険因子であるため、脳の健康に影響を及ぼしてしまう可能性*5
  • 耳鳴りの発症へとつながる可能性*6

隠れ難聴の原因は、100%明らかになっているわけではありません。難聴は、内耳の有毛細胞の減少と聴神経が損傷することにより引き起こされます。加齢によって内耳の有毛細胞や聴神経線維の機能障害や損傷がゆっくりと進行することもありますが、大きな音に長時間曝されることで受けた損傷の回復が困難になり、このような問題が加速することなどが分かってきています。

◆ 音楽関係者(音楽業界に関わる人々)と聞こえ*7

隠れ難聴との関係が指摘される耳鳴りについて、音楽に日常関わりを持つ人々では、耳鳴りはどの程度多いのでしょうか、発表されている研究によっても差異はありますが、一般的には音楽に関わる人々の30~50%がある一定の耳鳴りを経験していると言われています。このような事実は、音楽業界の人々の間で騒音性難聴の割合が高いことが原因の一つといえます。難聴は耳鳴りの原因として一般的であり、よく知られています。

耳鳴り
騒音性難聴

◆ 難聴や耳鳴りがもたらす精神的な負担

様々な理由から、音楽関係者にとっても耳鳴りや難聴がもたらす感情的・心理的な影響はより大きなものになるとされます。 何よりもまず、耳鳴りや聞こえの変化は音や音楽に対する知覚に悪影響を及ぼし、自身の今後のキャリアに対する現実的な脅威のように感じられる可能性があるからです。

さらに、音楽関係者はこれまでに多くの時間を音や周波数の小さな違いに集中して費やしているという事実が、問題を複雑にしています。音や聴覚に対する意識が高まり(または過敏になり)、それがそのまま聞こえの違いや、耳鳴りの知覚の強さにつながるとされています。音楽関係者にとってこのような問題は、長い間、聴覚を適切に保護しなかったことによる累積的な結果であることも多いとされ、もっとしっかり守っておけばよかったという後悔の念を強く抱く人々も少なくありません。しかし、最も困難なことは、音楽関係者のほとんどが、世間や仕事上の評判に影響することを恐れて聞こえの変化を相談することなく、その結果、孤独を深めることが多いとされています。特に、音楽ビジネスのプロダクションや音響エンジニアの人たちはその傾向があるとされます。

音響技術者であるスワン・バラットさんの場合・・・
※この動画で語られている内容は あくまでも個人的な感想であり ユーザーを代表しての声ではありません。
他の方に対しても同様の効果が期待できることを保証するものでもありません。

◆ 隠れ難聴を予防するために

難聴が発見された時には、すでに難聴は永久的なものとなっているケースもあるため、隠れ難聴の原因につながる「不健康な聞こえの習慣」を改めることが重要とされています。したがって難聴と明確に診断される前に、聴力をできるだけ維持できるための対処を行う必要があります。必要な予防策を取り、不健康な聞こえの習慣を改善することで、良好な聴力をより長く保つことができ、加齢による難聴、社会的孤立、認知症などのリスクを減らすこともできると実証されています*4

オーティコン デンマーク本社でオージオロジー担当バイスプレジデントを務める、トーマス・ベーレンスは述べます。「隠れ難聴と難聴の研究から強く伝えたいメッセージとして、現在の聴力を維持するためには、聞こえの健康を意識することと、聞こえを守ることが必要だということです。一般的な聴力検査では、聴力の閾値が正常範囲内にあるため隠れ難聴の判明はありません。難聴と診断されないと、難聴や聞こえづらさを自覚するのは困難です。隠れ難聴は、難聴が進行してしまう前に予防策を講じることが大切です。隠れ難聴を防ぎ、将来のために聞こえを守るための最善の方法は、安全な音の大きさを意識することです。研究によると、聴覚へのダメージは残り続けるので、大きな音に過度に曝された損傷は、生涯にわたって蓄積されます。大きな音が避けられない場合は、耳の保護を第一に考えましょう。」

難聴の予防の詳細についてはこちらもご覧ください

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【参考文献】

*1 https://denmark.dk/people-and-culture/danish-traditions

*2 Kohrman et al. 2020: Hidden Hearing Loss: A Disorder with Multiple Etiologies and Mechanisms

*3 World Hearing Day 2022 (who.int)

*4 Wu et al.2018: Primary neural degeneration in the human cochlea: Evidence for hidden hearing loss in the aging ear

*5 Livingston et al. 2017: Dementia prevention, intervention, and care.

*6 Epp et al. 2012: Increased intensity discrimination thresholds in tinnitus subjects with a normal audiogram.

*7 https://www.healthyhearing.com/report/53196-Musicians-tinnitus-and-hearing-loss

【本件に関するお問い合わせ先】

オーティコン補聴器 (デジタルマーケティング:林田、プロダクトマネジメント:渋谷)
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