聞こえの健康対策を先延ばしにすべきでない7つの理由

01/02/20

先延ばしに関する研究の第一人者であるピアース=スティール博士(Dr. Piers Steel)によれば、すべきことをついつい先延ばしにしてしまうのはありがちなことであり、我こそが先延ばしの常習犯であると感じている人の実に95%はその習慣を変えたいと考えています。なぜこれを問題視する必要があるのでしょうか?とりわけ、常にぐずぐずと延ばしてしまう傾向をもつ人々は、不安や抑うつ、強迫性神経症といった症状をより抱えやすい傾向があり自己鍛錬や身だしなみといった部分で周囲に後れを取った経験があるかもしれません。

ついつい先延ばしにしてしまう癖、多くの人はこれを変えたいと感じています。

やりたくないことをついつい引き延ばしてしまう--それが健康に関係することでない限りは懸念材料にはならないかもしれません、ですが次に何か、これは後でもいいやと思ったとき、「聞こえの健康に関して」はそうすべきでない7つの理由があります。

難聴に対処しないままにしておくことは聞こえを司る脳の領域にも影響が

7reeasons1多くの人々は、聴覚、つまり聞くことは、実際は脳の働きであるということを認識していません。事実、耳は周囲の声や音を集めますが、私たちの脳はそれらの無作為に発生するノイズをこれまでの経験や記憶と結びつけることで音の意味や会話を理解しています。音の意味を理解する脳の働きによって、危険を伝える警告音を捉えたり、お気に入りの曲のコーラスを楽しんだりといったことができるのです。2017年に米国コロラド大学の音声言語学科が行った研究によると、聴力の低下があると、従来聴覚(聞く)を司っていた脳の領域が視覚や触覚などの他の感覚領域に取って代わってしまうという事実が判明しています。

認知症およびアルツハイマー病に関連して

高齢者における脳萎縮の発見は、難聴を治療せずにそのまま放置している人々が認知症およびアルツハイマー病の発症リスクがより高いとされる理由でもあるかもしれません。国際的な専門家のメンバーで構成されている、認知症予防、介入およびケアに関するランセット委員会(Lancet Commissions on Dementia Prevention, Intervention and Care:以下ランセット委員会)並びに米国ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)における新たな研究は、難聴を治療することが、これらの状態を発症するリスクの低下につながる一つの方法であるということを示唆しています。これら二つの研究の結果は、米国ロンドンで7月に開催された2017年アルツハイマー協会国際会議の場で発表されました。

バランスを崩したり、転倒につながる危険性が高まる

7reeasons2難聴によって起こる、もう一つの健康上のリスクに「転倒の危険性の増加」があります。それは難聴がバランス感覚を司る脳の前庭系に影響を与えることで起こります。米国疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention)によれば、転倒を理由として2015年に全米社会保険プログラム(MediCare)に請求された費用は合計で310億ドルを超えました。

米国ジョンズ・ホプキンス大学医学部(The Johns Hopkins School of Medicine)並びに米億国立加齢医学研究所(The National Institute of Aging)が行った研究によれば、軽度の難聴であっても偶発的な転倒のリスクが健聴者に比較して約3倍に高まることが判明しました。転倒のリスクは、難聴の程度が10デシベル悪化するごとに140%増加するとされます。この研究で行われた被験者テストでは、補聴器を装用した被験者は、補聴器がオフになっている状態と比較して2倍のバランスを保つことができました。

感情面からの健康

聞こえの健康を先送りにすることで、感情面からの健康も危険にさらされます。米国国立聴覚・伝達障害研究所(National Institute of Deafness and Other Communication Disorders:NIDCD)の調査によると、難聴を未処置のまま放置している人々の11%がうつ病を抱えているとされています。この割合は健聴者における人口比率ではわずか5%に過ぎません。

難聴がありながら未治療である50歳以上の2,300人を対象にした全米高齢者協議会による別の調査では、うつ病、不安および妄想性障害を申告する割合が高く、また補聴器を装用している難聴者と比較して組織的な社会活動へ参加することが少ないという結果が報告されています。

聞くことから生じる疲れ

7reeasons3かかりつけの医師から「健康状態は良いですよ」と言われているのにも関わらず、一日を過ごすことで通常よりもっと疲れを感じるとしたら、一度耳鼻科医へ相談すべきタイミングかもしれません。不足している音響情報に対し周囲の環境にある音や声の意味を理解しようと脳はこれまでよりもっと働いているために、疲れにつながっていることもあります。 この状態は聞こえがもたらす疲れ、すなわち聴覚疲労として知られています。

家族や周囲との人間関係への影響

身体的また感情的の側面への心配から意欲が下がりがちという場合、難聴をそのままにしておくことは、家族、友人、同僚などとの関係への影響についても考えていただく必要があります。難聴を抱える人々を対象に米国コクレア社*の行った調査によれば、(適切なケアを行っていない)難聴を抱えることによって恋人など近しい人との関係に最も難しさを感じ、家族、友人、同僚との関係がこれに続くと報告されています。英国で2009年に行われた調査では、コミュニケーションの断絶が実際に結婚を含む関係の破たんにつながることがあると判明しました。

難聴の結果として、不満、腹立たしさ、孤独感、社会的な距離などの否定的な感情や、コミュニケーションが困難になること、周囲と協力して行う活動の減少、仲間づきあいやコミュニケーションの機会の減少などにつながります。

収入との関係

7reeasons4聴力低下や難聴があったとしても、雇用する側がそのことを差別する理由にはなりません。しかしながら聞こえの問題を無視することは、結果的に追加的な支出につながることが報告されています。米国の医療機関Better Hearing Instituteが実施した調査によれば、聴力低下に対して適切なケアを行っていない場合、補聴器を装用している人々と比較して200万円を超える収入差があるとされます。また、デンマーク国立社会研究所(Danish Institute for Social Research)の調査によれば、難聴の悩みを持つ人々の5人に1人が仕事をやめているという結果が示されています。

終わらせましょう!

ここまでにご紹介したように聞こえの問題を先延ばしにしてしまうことは、身体と心そして経済的な側面から健康でない状況につながりかねません。米国難聴者協会(Hearing Loss Association of America)によると、米国において何らかの聴力低下を感じている人口は 4,800万人以上になり、年齢層の内訳では60-69歳の人々が多い一方でこの年代は聴覚ケアについては消極的ともされています。

1年に1度耳鼻科医を訪れていただくことはとても意義のあることです。1月も終わりに近づき最初の一月が過ぎようとしている今、すでに実現するのは来年でも良いかなと思い始めた先延ばしリストにどうぞ「聞こえの健康について関心を持つこと」だけは加えないようにしてください。

耳鼻科へ足を運んでいただくとともに、聞こえにについて気になることがあればお近くの補聴器専門店にご相談いただくことも可能です。どうぞ健康な聞こえを守って毎日をアクティブにお過ごしください。

■参照サイト

*米国コクレア社調査(英文)

■本記事について

本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.comに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。

■英語版記事はこちらから

米国「Healthy Hearing」2018年1月2日の記事「Seven reasons to stop putting off hearing health」(Debbie Clason寄稿)